風の行方とハードボイルドワンダーランド

再雇用の機会を捨て自由な時と空間を・・・ 人は何のために生まれてきたのだろうか? これから本当の旅がはじまる・・・

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ヴェニスの商人とアウシュビッツ

宮本さんから劇団昴の新拠点、東上線大山の「Pit昴」での「ヴェニスの商人」上演のお知らせを受け、昨夜観に行った。30人と40人の観客席の間に舞台がある座席数70-80の小さな劇場だ。宮本さんは「ヴェニスの商人」=アントーニオ役で主役だった。
ヴェニスの商人 ヴェニスの商人2

「ヴェニスの商人」、聞いたことはあるが詳しいことは知らなかった。初演は1596年だそうで、奇しくも慶長地震のころ、英国はビクトリア一世の時代、スペインの無敵艦隊を破り、東インド会社が設立されたのがこの頃だ(追って調べてわかった)。シェークスピアといえどもその作品にはこの当時の英国の社会の風景が色濃く反映されているだろう。400年以上昔の話だ。

シェークスピアなので、大仰で饒舌なセリフが続き、脚本構成も現代的感覚から見れば難があるが、古典とあらば仕方がない。休憩を入れて3時間の長編だから、かなり原文に近い脚本だったのかもしれない(福田恒存訳)。

「ヴェニスの商人」で最も強く残った印象は、この劇が、キリスト教徒もしくは英国貴族(イタリアが舞台だが)によるユダヤ人にたいする人種差別が劇の背骨だったことだった。キリスト教徒善と智と美と慈悲と正義が高らかに歌われ、ユダヤ人の悪と愚と無慈悲が徹底的に愚弄される。一幕でシャイロックとアントーニオが互いに憎しみ合っていることがわかるが、その背景には触れられぬまま話が進む。ユダヤ人が嫌悪と憎しみの対象であることが、当時は説明する必要がないぐらい当然だったのだろう。

しかし、素直な目で舞台を見る限りシャイロックに悪いところは何も見えない。多少の言葉の綾はあっても、アントーニオに無利子で金を貸して、代わりに証文を貰うだけだ。その証文に、例の「肉1ポンド」と記載されている。背景にアントニーニオが返済不能に陥るリスクは見えないので、事実関係をとれば善意の貸与に見えるぐらい。

そして、有名な裁判の幕。当時、英国は完全な法治国家だったようで、全てが法の条文で判決が出されていたようだ。だから、ポーシャも証文は有効であると宣言している。ここでも、シャイロックは法的に正しい。が、「ただし、キリスト教徒の血を一滴も流してはいけない」というオチによって、シャイロックは殺人未遂で死刑を宣告され、国家に財産を没収される判決を受ける。ただし、これもキリスト教徒の善と慈悲の象徴であるアントーニオの懇願により命が救われる。

これは喜劇である。シェークスピアに人種差別の意識があったとは思われないし、ユダヤ人を愚弄する意図で台本を書いたわけでもないだろう。ユダヤ人を差別しいじめることが当時のキリスト教社会の善だったにすぎない。

多分、これは第二次世界大戦が終戦するまでの西欧社会が共有する感情だったと思われる。NHKの特集でアウシュビッツのドキュメントを放映したことがある。その中で、「ユダヤ人虐殺はナチだけが行ったものではない、ドイツ人は誰でも知っていた、誰でも」、というようナレーションかテロップが流れた。なるほど、と思う。西欧人にとって異教徒や異人種は慈悲の対象ではなかった。英国のジンバブエいじめは近年のことだ。アメリカが日本の非戦闘員を大量虐殺したのも同じメンタリティーだったに違いない。
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