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2020.05/06 [Wed]
新型コロナウイルスの正体(5)
五日間の山暮らしから戻れば、新型コロナウイルスの発生状況も落ち着き、最大の懸念であった医療体制もほぼ安定化したようなので、このトピックはパスして次のテーマへ。
NHKのHPより
改めて、世界の感染状況をチェック。図の日付けは日本の感染推移の日付けで、他国は感染拡大期の開始時期を揃えて示してある。前回が4月11日までのデータだったので4週間ぶりのアップ。4月下旬には西欧コロナ先進国の感染状況はピークを越すだろうと書いたが、予想通りの展開だった。一方日本の感染者はどこまで増えるのか大いに懸念していたが、幸いなことに顕著な増加は見られなかった。むしろ、欧米の爆発的感染増加に較べて、異様に感染に強い日本の姿が鮮明になった。
4月19日に、「実際は日本人のの特性なのか、政策の効果なのかわからないが、いずれにせよ想定するより感染者は少なく収束しそうに思える。 」と書いたのだが、1億もの人口がいてこれだけ異次元ともいえる極端に少ない感染者数となれば、それは政策効果でなく日本人の何らかの特異性によるものと考えた方が科学的である。

そのカギの一つが、4月1日に記した感染者の年齢階級分布。結果はわかっているがわかりやすく新型コロナウイルス陽性者とインフルエンザ流行年の感染者を並べて示した。インフルエンザでは幼年者ほど患者が多く、20歳未満でほぼ半数を占めるが、同年代の感染者は新型コロナウイルスに関しては、異様に少なく5%に満たないことが鮮明。インフルエンザの場合は、年齢に伴インフルエンザ抗体が増えるので感染者が少なく、若年ほどインフルエンザの被曝が少なく抗体の量もしくは抗体を持つ人自体が少ないから、とその時記した。
インフルエンザとコロナウイルスは外見や感染システムは同様なので、新型コロナウイルスではなぜ若い人でこのような劇的ともいえる差が生じるのかという点に、新型コロナウイルス感染の特徴があるはずである。

妻は元医療関係者なので、医学的な話題に時々なる。先日、日本は結核の先進国なの、という話が出た。へぇーというので実態を厚生労働省の報告書を見た。現状をみると、欧米での罹患率は10万人あたり3-8人、一方東南アジアでは桁違いに高いが、日本は12人程度と欧米よりは高いが、恥じ入るほどではない(左図)。
過去からの推移も示されていた(右図)。昭和25年での死因の1位が結核で、死者は年間12万人、以降結核撲滅の努力のおかげで、死因としては30位に後退し、死者2000人前後でというのが現状。
それがBCG接種の成果である。小学生時代、ツベルクリン反応とBCG接種になんとなく恐怖を覚えた記憶が鮮明だが、そのころの結核による死者は毎年3-4万人だった。

一ヶ月ほど前に、コロナウイルスにBCGが効くというような記事が散見された。当時はふーんと思うだけでスルーしていた。今回の上記のコロナ感染の実態を見ると単にネット上のフェイクではなさそうに思えて一日いろいろと検索。
記事の出どころはこれらしい。きちんとした医学者が書いたレポートだった。

この記事を踏まえて、東北大学副学長で、東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授が「ダイアモンド・オンライン」に寄稿していた。長いが肝の部分をほぼまるごとコピペ。
BCGとは、結核予防のためのワクチンで、結核菌を弱毒化したものだ。日本では、かつてはツベルクリン反応(ツ反)検査で陰性の(つまり、まだ結核菌に感染していないと考えられる)人にのみ接種されていたが、現在は生後1歳未満の赤ちゃんを対象に接種が義務付けられている。あの「9本針のスタンプ注射」の接種率は98%に上る。欧州諸国はほとんどの国でBCG接種のプログラムがない。
ほぼ100年の歴史があるBCG接種。実は疫学研究者は、このワクチン接種が結核予防以外の効果があるらしいことに気づいていた。例えば、BCG接種によって小児の結核以外の理由、特に呼吸器感染症による死亡率も減少するという報告が、発展途上国だけでなく多数ある。また、約3000人を60年間フォローアップして得られた米国のデータでは、幼児期のBCG接種が成人期以降の肺がんの発生リスクを下げる効果があると示されている。
いったいどのようにして、結核に対するBCGワクチンが、それ以外の疾患に対しても効果を発揮する「オフターゲット効果」を示すのだろう?
そもそも細菌やウイルスが体内に侵入した場合に、生体はそれを排除する仕組みを備えている。そのやり方には2つある。まず、「獲得免疫」とは、血液の中を循環しているT細胞やB細胞といった免疫系の精鋭部隊の細胞たちが、病原体が侵入したことを“記憶”。次回の進入時には、記憶したターゲットを狙い撃ちする「抗体」を素早く産生することによって病原体を排除する優れたシステムだ。ただし、このシステムが病原体ではなく花粉に対して過剰に働くと、花粉症のようなアレルギー反応を引き起こしてしまう。
一方、生体には“あらかじめ備わっている”免疫システムもある。外来の病原体が侵入すると、マクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞といった免疫系の別の細胞たちが働き、ただちに「炎症性サイトカイン」と呼ばれる物質を分泌して対応する。
BCG接種は、どうもこの「自然免疫」を刺激するらしいことが分かってきた。2012年にオランダのグループが行った研究では、BCGワクチンは、インターフェロンγの産生を促すだけでなく、ヒトの免疫系細胞の1種である「単球」(マクロファージや樹状細胞に分化する細胞)を活性化し、種々のサイトカインを分泌させることがわかった。
この研究グループは、BCGのこのような効果を「訓練免疫(trained immunity)」という新たな概念として提唱している。つまり、自然免疫が働きやすくなるように“訓練された”状態になるというのだ。さらに彼らは、BCG接種を受けた健常人血液に含まれる単球の“遺伝子スイッチ”の状態(専門用語では「エピゲノム」の状態)を全ゲノムレベルで調査。一回のBCG接種でサイトカインや様々な増殖因子を分泌しやすくなる方向に、スイッチの状態が変わっていることを18年に報告した。つまり、「訓練免疫」とは、いわば「自然免疫」がパワーアップした状態と考えられる。BCG接種により、未知の病原体に対する抵抗力が高まる可能性があるのだ。
日本における20歳未満の感染者が異様に少ないのは、幼児期に摂取するBCGワクチンが上記のようなメカニズムでコロナウイルスの肺への感染を妨げていると考えるとつじつまがあう。それ以上の世代でもまだBCG接種の効果が残っているとすれば、欧米のような爆発的感染が生じないことも説明が付く。高齢者や合併症のある感染者の死亡は別の話。
しかし、BCGを接種している国は日本以外にも多数ある。ヨーロッパでも現在も接種している国がある。なぜ日本だけが???
その答えのようなものを、先の大隅典子教授がご自身のブログで示唆されていた。引用されたものだがこの図。BCGといってもBCGの元になる株にはいくつかあり、日本で接種されるBSGは「BCGJapan」、欧米のBCGは「BSG Dnmark」であって日本で使用されているものとは異なる。水色がそれで、日本を含め8か国で使用されている。

あす、それらの国の感染状況を見てみよう。
NHKのHPより

改めて、世界の感染状況をチェック。図の日付けは日本の感染推移の日付けで、他国は感染拡大期の開始時期を揃えて示してある。前回が4月11日までのデータだったので4週間ぶりのアップ。4月下旬には西欧コロナ先進国の感染状況はピークを越すだろうと書いたが、予想通りの展開だった。一方日本の感染者はどこまで増えるのか大いに懸念していたが、幸いなことに顕著な増加は見られなかった。むしろ、欧米の爆発的感染増加に較べて、異様に感染に強い日本の姿が鮮明になった。
4月19日に、「実際は日本人のの特性なのか、政策の効果なのかわからないが、いずれにせよ想定するより感染者は少なく収束しそうに思える。 」と書いたのだが、1億もの人口がいてこれだけ異次元ともいえる極端に少ない感染者数となれば、それは政策効果でなく日本人の何らかの特異性によるものと考えた方が科学的である。

そのカギの一つが、4月1日に記した感染者の年齢階級分布。結果はわかっているがわかりやすく新型コロナウイルス陽性者とインフルエンザ流行年の感染者を並べて示した。インフルエンザでは幼年者ほど患者が多く、20歳未満でほぼ半数を占めるが、同年代の感染者は新型コロナウイルスに関しては、異様に少なく5%に満たないことが鮮明。インフルエンザの場合は、年齢に伴インフルエンザ抗体が増えるので感染者が少なく、若年ほどインフルエンザの被曝が少なく抗体の量もしくは抗体を持つ人自体が少ないから、とその時記した。
インフルエンザとコロナウイルスは外見や感染システムは同様なので、新型コロナウイルスではなぜ若い人でこのような劇的ともいえる差が生じるのかという点に、新型コロナウイルス感染の特徴があるはずである。

妻は元医療関係者なので、医学的な話題に時々なる。先日、日本は結核の先進国なの、という話が出た。へぇーというので実態を厚生労働省の報告書を見た。現状をみると、欧米での罹患率は10万人あたり3-8人、一方東南アジアでは桁違いに高いが、日本は12人程度と欧米よりは高いが、恥じ入るほどではない(左図)。
過去からの推移も示されていた(右図)。昭和25年での死因の1位が結核で、死者は年間12万人、以降結核撲滅の努力のおかげで、死因としては30位に後退し、死者2000人前後でというのが現状。
それがBCG接種の成果である。小学生時代、ツベルクリン反応とBCG接種になんとなく恐怖を覚えた記憶が鮮明だが、そのころの結核による死者は毎年3-4万人だった。


一ヶ月ほど前に、コロナウイルスにBCGが効くというような記事が散見された。当時はふーんと思うだけでスルーしていた。今回の上記のコロナ感染の実態を見ると単にネット上のフェイクではなさそうに思えて一日いろいろと検索。
記事の出どころはこれらしい。きちんとした医学者が書いたレポートだった。

この記事を踏まえて、東北大学副学長で、東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授が「ダイアモンド・オンライン」に寄稿していた。長いが肝の部分をほぼまるごとコピペ。
BCGとは、結核予防のためのワクチンで、結核菌を弱毒化したものだ。日本では、かつてはツベルクリン反応(ツ反)検査で陰性の(つまり、まだ結核菌に感染していないと考えられる)人にのみ接種されていたが、現在は生後1歳未満の赤ちゃんを対象に接種が義務付けられている。あの「9本針のスタンプ注射」の接種率は98%に上る。欧州諸国はほとんどの国でBCG接種のプログラムがない。
ほぼ100年の歴史があるBCG接種。実は疫学研究者は、このワクチン接種が結核予防以外の効果があるらしいことに気づいていた。例えば、BCG接種によって小児の結核以外の理由、特に呼吸器感染症による死亡率も減少するという報告が、発展途上国だけでなく多数ある。また、約3000人を60年間フォローアップして得られた米国のデータでは、幼児期のBCG接種が成人期以降の肺がんの発生リスクを下げる効果があると示されている。
いったいどのようにして、結核に対するBCGワクチンが、それ以外の疾患に対しても効果を発揮する「オフターゲット効果」を示すのだろう?
そもそも細菌やウイルスが体内に侵入した場合に、生体はそれを排除する仕組みを備えている。そのやり方には2つある。まず、「獲得免疫」とは、血液の中を循環しているT細胞やB細胞といった免疫系の精鋭部隊の細胞たちが、病原体が侵入したことを“記憶”。次回の進入時には、記憶したターゲットを狙い撃ちする「抗体」を素早く産生することによって病原体を排除する優れたシステムだ。ただし、このシステムが病原体ではなく花粉に対して過剰に働くと、花粉症のようなアレルギー反応を引き起こしてしまう。
一方、生体には“あらかじめ備わっている”免疫システムもある。外来の病原体が侵入すると、マクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞といった免疫系の別の細胞たちが働き、ただちに「炎症性サイトカイン」と呼ばれる物質を分泌して対応する。
BCG接種は、どうもこの「自然免疫」を刺激するらしいことが分かってきた。2012年にオランダのグループが行った研究では、BCGワクチンは、インターフェロンγの産生を促すだけでなく、ヒトの免疫系細胞の1種である「単球」(マクロファージや樹状細胞に分化する細胞)を活性化し、種々のサイトカインを分泌させることがわかった。
この研究グループは、BCGのこのような効果を「訓練免疫(trained immunity)」という新たな概念として提唱している。つまり、自然免疫が働きやすくなるように“訓練された”状態になるというのだ。さらに彼らは、BCG接種を受けた健常人血液に含まれる単球の“遺伝子スイッチ”の状態(専門用語では「エピゲノム」の状態)を全ゲノムレベルで調査。一回のBCG接種でサイトカインや様々な増殖因子を分泌しやすくなる方向に、スイッチの状態が変わっていることを18年に報告した。つまり、「訓練免疫」とは、いわば「自然免疫」がパワーアップした状態と考えられる。BCG接種により、未知の病原体に対する抵抗力が高まる可能性があるのだ。
日本における20歳未満の感染者が異様に少ないのは、幼児期に摂取するBCGワクチンが上記のようなメカニズムでコロナウイルスの肺への感染を妨げていると考えるとつじつまがあう。それ以上の世代でもまだBCG接種の効果が残っているとすれば、欧米のような爆発的感染が生じないことも説明が付く。高齢者や合併症のある感染者の死亡は別の話。
しかし、BCGを接種している国は日本以外にも多数ある。ヨーロッパでも現在も接種している国がある。なぜ日本だけが???
その答えのようなものを、先の大隅典子教授がご自身のブログで示唆されていた。引用されたものだがこの図。BCGといってもBCGの元になる株にはいくつかあり、日本で接種されるBSGは「BCGJapan」、欧米のBCGは「BSG Dnmark」であって日本で使用されているものとは異なる。水色がそれで、日本を含め8か国で使用されている。

あす、それらの国の感染状況を見てみよう。
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