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2021.08/23 [Mon]
藤井二冠の将棋

将棋の藤井聡太二冠が史上最年少での「三冠」をかけて挑んだ「叡王戦」五番勝負の第4局でタイトルを持つ豊島将之二冠が勝って2勝2敗の五分に持ち込みました。勝負の行方は9月の最終局へともつれ込みました。(中略)藤井二冠は「早い段階で形勢を損ねてしまいました。本局は完敗だったので、最終局は精いっぱい戦って勝負どころを作れるようにしたい」と話していました。
この対局、藤井聡太二冠が91手という短手数で破れ、勝てば叡王のタイトルを取れただけに残念な結果に終わってしまった。自身で言う形勢を損ねた敗着がこれ。38手目で9三桂と跳ねた。大分昔に森下八段が「こんな所に桂を跳ねて幸せになった人はいない」と言い放ったことがある場所。さすがに藤井二冠とあっても、これ以降一方的に悪くなってまさに完敗した。

とはいえ、藤井聡太二冠の強さは別格というか、将棋というゲームの概念を変えてしまったと言ってもいいぐらい。藤井以前の将棋は矢倉囲いとか美濃囲いで玉をまず守るというのが基本。穴熊なと言うのもあるぐらい。一方相掛かりとか角換わりという玉の囲いを簡略にする将棋もある。
昔、オスロでノルウェー人に将棋を教えた時に自分でもいろいろ研究し、相掛かりが究極の先方かもしれないと思った。藤井二冠の将棋は原則的にその相掛かりか角換わり、しかも居玉か玉が一手動くだけで戦闘を始めることが目立つ。しかも飛車や角を簡単に見捨て、肉を切らせて骨を切るというより、骨を切らせて脳髄を切るような将棋。これまでの結果から、長年従来の将棋に慣れた並のプロでは発想が違い過ぎて勝負にならないことが証明されている。
さらに、藤井は中学生の時からプロが参加する詰将棋選手権に出場、プロになった2017年時点で3連覇を成し遂げている。名人やタイトルホルダーを含む将棋のプロの世界で、すでに頂点に達していた。この時の話は「藤井四段はなぜ強いか?」という記事に書いているのでご参照のほど。
→こちら
さて、最近印象に残った対局が8月16日に行われた王将戦二次予選決勝の対稲葉陽八段との一戦。藤井の圧勝に終わった対局であったが、興味深いのが途中経過。
「藤井聡太を忖度なしに応援するブログ」というページがあり、藤井の対局の一手一手をAI(将棋ソフト、「水匠4」と「白ビール」)に解析させ、形勢を数値で示している。その形勢の経緯が下図。
![20210823藤井聡太vs稲葉陽[王将戦2次予選決勝]](https://blog-imgs-150.fc2.com/b/b/7/bb79a/20210823113911b39.png)
いつもの通りノーガードでの打ち合いのような将棋で、藤井の圧勝にしか見えなかったが、AIの評価では中盤で稲葉が逆転している。AIの考慮時間は3分、58手目の藤井の手に対し悪手、疑問手の判定で形勢は互角になった。その後も悪手、疑問手の連続で形勢は稲葉勝勢にまで逆転された、ようなAIの評価だった。しかし、78手目から互角に戻り、その後は一気に稲葉の玉を詰ませておしまい。
藤井にとっては最善の手がAIには理解できなかったということである。これを見て「情報の地平線」という問題を思わざる得なかった。例えば、ある手を指すとき、19手先まで読んで最善であればそれを指す。20手目から先は見えないから。しかし22手目に良い手を指されるかもしれないし、それを上回る良い手が23手目にあるかもしれない。だから情報の地平線。
藤井はAIの先まで読んでいたのだろう、もしかしたら詰みまで見えていたのかもしれない。実際、78手目に形勢は互角に戻り以後一気に優勢から勝利確定へ。これでは藤井に普通の棋士では勝つことはできないだろう。
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