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2022.02/08 [Tue]
風の運?(完成版)
高梨沙羅ちゃん、団体でも不幸に見舞われ痛々しい限り。

昨日の日経新聞に、女子ノーマルヒルの結果に対しこんな記事が出ていた。曰く「風の運・飛型点、個人戦の敗因に」。
「風の向きや強さに応じて「ウインドファクター」で点は加減されるものの、風を利して飛距離を稼いだ方が点が伸びやすい。」と他人ごとのように書いているが、「風の運」で勝敗、もしくはメダルの色や獲得の有無が決まってしまうというのであれば、スポーツにギャンブルの要素が入り込んでいるような違和感を覚える。どんなスポーツや勝負でも運不運はつきもの、と多くの人は思うだろうが、スキーのジャンプにおいては自然の影響がプレーヤー毎に変化し、かつその変化が他のどんなスポーツより大きいという点において特異である。だから「ウインドファクター」が持ち込まれたのであろう。
日経新聞の記事
では、「ウインドファクター」の実態はどんなものなのか?
ウエブ上に北京五輪の結果の詳細を公開している「gorin.jp」というページがあり、そこからデータをいただき解析した→こちら。スキージャンプの女子ノーマルヒルのデータをさらに著者が見やすくまとめたのが下表。トップ5人の一回目と二回目のジャンプの詳細で、これだけ公開されていれば十分である。

点数の概要はどこにでも書いてあるので略。簡単にいえば、飛距離と飛形点、そしてウインドファクター、すなわち風の影響の調整点=風補正点の合計。それらの点数の重みというか構成を、これら延べ10回のジャンプの平均でみたのか下図。ノーマルヒルの女子では総得点の約6割が飛距離、4割が飛形点、ウインドファクターは約3%(マイナスなので飛距離から差し引かれる)だった。意外と飛形点の重みが大きい。

スキーのジャンプでは向かい風の方が浮力が増すので飛距離が伸びる。逆に追い風だと浮力が落ち飛距離は伸びない。では実際に風の影響は定量的にどれほどなのか?これが今回の最大の関心事項であった。
今回の5名、全員が100メートルを飛んでおり、踏切時の速度も時速87.0キロから87.9キロと最高から最低までの差は1%ほど、ジャンプ能力に大差はないとみて差し支えない。そこで各自の一回目と二回目のジャンプを風速と飛距離平面にて較べた。結果は5名全員が、向かい風が強いほど飛距離が伸びていた。しかもその角度、すなわち風速の飛距離に与える影響はほぼ同じレベルであり、さすが超一流とあれば飛ぶごとに出来不出来があるわけではなく、全員がたぶん毎回安定したジャンプをしているということでもある。
ちなみに赤丸が高梨沙羅。

そこで風速の飛距離に対する影響を直線で近似した。結果は風速1メートルの向かい風に対して、飛飛距離は7.5メートル延びるという結果だった。追い風、すなわち風速がマイナスであるとK点の95メートルに達することもできない。いい例が一回目トップの青▲で示したアルトハウスで、追い風となった二回目は94メートルだった。

そこでウインドファクターが登場する。風の運、不運をコンペンセイトするというのが目的だろう。ウインドファクターがどのようにして算出されるのか不明であったため、それを推定した。風速とウインドファクターをプロットすると単純な直線になったことから風速に約8.35を掛けて求めているようだ。近似曲線が風速0でほぼ0点なので大過はないだろう。すなわち風速1.0メートルだと8.35点ほど飛距離点が減点される。これがウインドファクター=風補正点。

次に飛距離点、これは単純でK点(95メートル)を基準の60点とし、飛距離が1メートルに付き2点プラスマイナスされる。冒頭の表を見れば明らか。先に、「風速1メートルの向かい風に対して、飛飛距離は7.5メートル延びる」と書いた。点数にすると15点増えるということである。
ということは、風速に対する補正は、現風補正点のための係数8.35は非現実的、実態は15でなければ公平ではないことを意味している。今回のノーマルヒルのジャンプの飛距離に対し、風補正点の差をプロットしたのが下図。1.5メートルの向かい風に出会えば、飛距離増のメリットが大きく、現ウインドファクターの調整点より11点ほど得をする。飛形点の標準偏差は2.2点だったので一流選手にとっては似たようなもの、風の強さによるメリットがメダルの有無や色の差になっている。スポーツの仮面をかぶったギャンブル、といってもいいぐらい。こんなシステムが公認されているとは驚きであった。関係者は誰も異議を唱えないのが不思議。


昨日の日経新聞に、女子ノーマルヒルの結果に対しこんな記事が出ていた。曰く「風の運・飛型点、個人戦の敗因に」。
「風の向きや強さに応じて「ウインドファクター」で点は加減されるものの、風を利して飛距離を稼いだ方が点が伸びやすい。」と他人ごとのように書いているが、「風の運」で勝敗、もしくはメダルの色や獲得の有無が決まってしまうというのであれば、スポーツにギャンブルの要素が入り込んでいるような違和感を覚える。どんなスポーツや勝負でも運不運はつきもの、と多くの人は思うだろうが、スキーのジャンプにおいては自然の影響がプレーヤー毎に変化し、かつその変化が他のどんなスポーツより大きいという点において特異である。だから「ウインドファクター」が持ち込まれたのであろう。
日経新聞の記事

では、「ウインドファクター」の実態はどんなものなのか?
ウエブ上に北京五輪の結果の詳細を公開している「gorin.jp」というページがあり、そこからデータをいただき解析した→こちら。スキージャンプの女子ノーマルヒルのデータをさらに著者が見やすくまとめたのが下表。トップ5人の一回目と二回目のジャンプの詳細で、これだけ公開されていれば十分である。

点数の概要はどこにでも書いてあるので略。簡単にいえば、飛距離と飛形点、そしてウインドファクター、すなわち風の影響の調整点=風補正点の合計。それらの点数の重みというか構成を、これら延べ10回のジャンプの平均でみたのか下図。ノーマルヒルの女子では総得点の約6割が飛距離、4割が飛形点、ウインドファクターは約3%(マイナスなので飛距離から差し引かれる)だった。意外と飛形点の重みが大きい。

スキーのジャンプでは向かい風の方が浮力が増すので飛距離が伸びる。逆に追い風だと浮力が落ち飛距離は伸びない。では実際に風の影響は定量的にどれほどなのか?これが今回の最大の関心事項であった。
今回の5名、全員が100メートルを飛んでおり、踏切時の速度も時速87.0キロから87.9キロと最高から最低までの差は1%ほど、ジャンプ能力に大差はないとみて差し支えない。そこで各自の一回目と二回目のジャンプを風速と飛距離平面にて較べた。結果は5名全員が、向かい風が強いほど飛距離が伸びていた。しかもその角度、すなわち風速の飛距離に与える影響はほぼ同じレベルであり、さすが超一流とあれば飛ぶごとに出来不出来があるわけではなく、全員がたぶん毎回安定したジャンプをしているということでもある。
ちなみに赤丸が高梨沙羅。

そこで風速の飛距離に対する影響を直線で近似した。結果は風速1メートルの向かい風に対して、飛飛距離は7.5メートル延びるという結果だった。追い風、すなわち風速がマイナスであるとK点の95メートルに達することもできない。いい例が一回目トップの青▲で示したアルトハウスで、追い風となった二回目は94メートルだった。

そこでウインドファクターが登場する。風の運、不運をコンペンセイトするというのが目的だろう。ウインドファクターがどのようにして算出されるのか不明であったため、それを推定した。風速とウインドファクターをプロットすると単純な直線になったことから風速に約8.35を掛けて求めているようだ。近似曲線が風速0でほぼ0点なので大過はないだろう。すなわち風速1.0メートルだと8.35点ほど飛距離点が減点される。これがウインドファクター=風補正点。

次に飛距離点、これは単純でK点(95メートル)を基準の60点とし、飛距離が1メートルに付き2点プラスマイナスされる。冒頭の表を見れば明らか。先に、「風速1メートルの向かい風に対して、飛飛距離は7.5メートル延びる」と書いた。点数にすると15点増えるということである。
ということは、風速に対する補正は、現風補正点のための係数8.35は非現実的、実態は15でなければ公平ではないことを意味している。今回のノーマルヒルのジャンプの飛距離に対し、風補正点の差をプロットしたのが下図。1.5メートルの向かい風に出会えば、飛距離増のメリットが大きく、現ウインドファクターの調整点より11点ほど得をする。飛形点の標準偏差は2.2点だったので一流選手にとっては似たようなもの、風の強さによるメリットがメダルの有無や色の差になっている。スポーツの仮面をかぶったギャンブル、といってもいいぐらい。こんなシステムが公認されているとは驚きであった。関係者は誰も異議を唱えないのが不思議。

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