Entries
2022.03/03 [Thu]
ウクライナ軍事侵攻:あおり運転は犯罪(後半)
ウクライナ問題、軍事侵攻を回避し外交交渉で何らかの合意が得られることが望ましいのは明らか。
前半で示したように、ロシアにとっての安全保障上の課題は軍事同盟であるNATOの東方拡大、すなわち同じスラブ民族である2か国がロシアを敵国とみなす同盟に参加することを回避することだった。もう一度地政学的現況を下図に確認しておく。

昨年12月、プーチン大統領は外交努力の一環としてバイデン大統領と直接協議する機会において、明確にロシアの意向をアメリカに伝えている。記事のタイトルは「プーチン氏、ウクライナのNATO非加盟要求」でこう記述されている。
プーチン大統領は7日のバイデン米大統領とのオンライン協議で、緊迫するウクライナ情勢に関して「北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を排除する信頼ある法的に定められた保証」を求める考えを伝えた。ロシアはウクライナがNATOに加盟すれば、勢力圏を大きくそがれ、対立する米欧中心のNATO軍がロシアに接近して自国の安全保障が損なわれると懸念している。プーチン氏は首脳協議で、ウクライナのNATO非加盟要求に加えて、攻撃兵器をロシアの隣接地域に配備しないことも「保証」に盛り込むよう求めた。
日経新聞朝刊より
ロシアは2021年12月に欧州安保の新たな合意案を米国とNATOに提案し、1月26日には書面回答を受け取っていた。2月2日の記事によると、
書面回答ではNATO東方拡大停止などロシアの要求が明確に拒否され、プーチン氏は1日、兄弟国とみなす隣国ウクライナがNATOに加盟したら「我々はNATOと戦うことになるのか」と不満をあらわにした。
翌3日の記事、英国のジョンソン首相とロシアのプーチン大統領は2日、緊迫するウクライナ情勢について電話で協議した。当然物別れに終わるが、発言の一部が記載されている。
プーチン氏はジョンソン氏に対して、ロシアが安全保障について抱える懸念についてNATOが適切に対応していないと指摘した。NATOの東方拡大阻止の要求では譲らない姿勢を改めて強調した。
さらに、記事にはこんなコメントもあった。ジョンソン首相の発言を受けての解説で、
ウクライナ情勢を巡り「米国とNATOが緊張をあおっている」と主張するロシアをけん制する発言とみられる。
以上の流れからも、また歴史的な経緯や地政学的状況から見ても、ロシアの意図はあきらか。NATOを安全保障上の脅威と捉える中、東欧は仕方がないが、ウクライナとベラルーシの二か国だけは軍事的に中立にしておきたい、そして願わくば親ロ政権にしたい、というものだろう。NATOが世界で最も凶暴なアメリカのコントロール下にある現状において、プーチン大統領の発言で一貫しているのは、ロシアの安全保障の担保である。
今日の朝刊文化面に7段抜きで、近現代ロシア史が専門の池田嘉郎・東京大准教授への聞き書きが掲載されていた。ウクライナはロシアにとって特別の存在でもある。
プーチン氏と支持者にとって、ウクライナは決して独立した存在ではない。ロシアを人間の身体に例えれば、切り離すと生命にかかわる大切な一部だという肌感覚を持っている。それがソ連崩壊の過程で1991年に分離してしまったのだ。ソ連は最終的にウクライナが連邦からの離脱を決めることで息の根を止められた。「まさに身を切られるような思いを30年もガマンしてきたのに、だれも我々の言うことを聞いてくれない」。ウクライナを巡るプーチン氏らの思いは一方的な被害者意識と言っていいが、本人たちは本気だ。
アメリカもバカではないからそのぐらいのことはわかっているだろう。NATOの東方拡大を続ければどうなるか、ロシアがウクライナ周辺に戦力を結集している中、ロシアが軍事侵攻する可能性は十分高いことも承知。要するに、アメリカと西欧諸国によるロシアに対するあおり運転そのものである。あおり運転をして、被害者が正当防衛として殴りかかってきたら110番して暴行現行犯で捕まえる、という悪質な犯罪者と同じようなもの。
そんな中で唯一ロシアの意図に理解を示したのがフランスのマクロン大統領。7日の記事から。
6日付の仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュ(JDD)がインタビュー記事を掲載した。マクロン氏はその中で「ロシアの地政学的な目的はウクライナではなく、NATOとEUと共存するためのルールをはっきりさせることだ」と分析した。領土拡張が第一の目的ではないとの見方を示した。
フランスのマクロン大統領とロシアのプーチン大統領は7日、モスクワで会談した。8日の記事。
約6時間続いた会談後の記者会見で、プーチン氏は「ウクライナ情勢が平和的に解決することを望んでいる。事態打開の土台となる提案もフランス側からあった」などと語った。マクロン氏も「いかなる状況の悪化も防ぐよう努力しなければいけない。意見が一致する点も見つけた」と応じ、議論の成果を強調した。
(中略)ロシアが求めるNATOの東方拡大停止を米国などが拒否したことに、プーチン氏は「ロシアの抱える中心的な懸念は残念ながら無視された」と不満を述べた。マクロン氏は拡大停止を決めるのは現実的ではないとの考えを示した。
戦争を避けるために、欧米が高所的判断からウクライナのNATOへの参加を認めない、一方ロシアはウクライナの独立を尊重する(ただし東部問題は別)、との意思を示せば侵攻は回避できたはず。
しかし事態は改善の兆しを見せないままロシアのウクライナへの軍事侵攻へと導かれていく。欧米、特にアメリカにとってはロシアのウクライナへの侵攻を待ち、この機にロシアを極悪人に仕立て上げ、ロシアの国力を一気に葬ることが当初からの目的だったように思われる。戦争を望んでいたのはアメリカである可能性は高く、そうであればあおり運転の確信犯。
2月24日、ロシアのプーチン大統領はテレビ演説でウクライナへの軍事作戦の開始を表明した。演説の要旨は以下の通り。
30年にわたり、欧州の安全保障の原則について合意を目指してきた。北大西洋条約機構(NATO)は我が国が抗議したにもかかわらず、拡大を続けてきた。2021年12月にも米国などと再度合意を試みたが、米国の立場は変わっていない。隣接する領土にも対抗的な「反ロシア」が生まれている。NATOの継続的な拡大はロシアの生死にかかわる脅威だ。
今日3月3日の日経新聞朝刊と夕刊の一面トップ記事。

前半で示したように、ロシアにとっての安全保障上の課題は軍事同盟であるNATOの東方拡大、すなわち同じスラブ民族である2か国がロシアを敵国とみなす同盟に参加することを回避することだった。もう一度地政学的現況を下図に確認しておく。

昨年12月、プーチン大統領は外交努力の一環としてバイデン大統領と直接協議する機会において、明確にロシアの意向をアメリカに伝えている。記事のタイトルは「プーチン氏、ウクライナのNATO非加盟要求」でこう記述されている。
プーチン大統領は7日のバイデン米大統領とのオンライン協議で、緊迫するウクライナ情勢に関して「北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を排除する信頼ある法的に定められた保証」を求める考えを伝えた。ロシアはウクライナがNATOに加盟すれば、勢力圏を大きくそがれ、対立する米欧中心のNATO軍がロシアに接近して自国の安全保障が損なわれると懸念している。プーチン氏は首脳協議で、ウクライナのNATO非加盟要求に加えて、攻撃兵器をロシアの隣接地域に配備しないことも「保証」に盛り込むよう求めた。
日経新聞朝刊より

ロシアは2021年12月に欧州安保の新たな合意案を米国とNATOに提案し、1月26日には書面回答を受け取っていた。2月2日の記事によると、
書面回答ではNATO東方拡大停止などロシアの要求が明確に拒否され、プーチン氏は1日、兄弟国とみなす隣国ウクライナがNATOに加盟したら「我々はNATOと戦うことになるのか」と不満をあらわにした。
翌3日の記事、英国のジョンソン首相とロシアのプーチン大統領は2日、緊迫するウクライナ情勢について電話で協議した。当然物別れに終わるが、発言の一部が記載されている。
プーチン氏はジョンソン氏に対して、ロシアが安全保障について抱える懸念についてNATOが適切に対応していないと指摘した。NATOの東方拡大阻止の要求では譲らない姿勢を改めて強調した。
さらに、記事にはこんなコメントもあった。ジョンソン首相の発言を受けての解説で、
ウクライナ情勢を巡り「米国とNATOが緊張をあおっている」と主張するロシアをけん制する発言とみられる。
以上の流れからも、また歴史的な経緯や地政学的状況から見ても、ロシアの意図はあきらか。NATOを安全保障上の脅威と捉える中、東欧は仕方がないが、ウクライナとベラルーシの二か国だけは軍事的に中立にしておきたい、そして願わくば親ロ政権にしたい、というものだろう。NATOが世界で最も凶暴なアメリカのコントロール下にある現状において、プーチン大統領の発言で一貫しているのは、ロシアの安全保障の担保である。
今日の朝刊文化面に7段抜きで、近現代ロシア史が専門の池田嘉郎・東京大准教授への聞き書きが掲載されていた。ウクライナはロシアにとって特別の存在でもある。
プーチン氏と支持者にとって、ウクライナは決して独立した存在ではない。ロシアを人間の身体に例えれば、切り離すと生命にかかわる大切な一部だという肌感覚を持っている。それがソ連崩壊の過程で1991年に分離してしまったのだ。ソ連は最終的にウクライナが連邦からの離脱を決めることで息の根を止められた。「まさに身を切られるような思いを30年もガマンしてきたのに、だれも我々の言うことを聞いてくれない」。ウクライナを巡るプーチン氏らの思いは一方的な被害者意識と言っていいが、本人たちは本気だ。
アメリカもバカではないからそのぐらいのことはわかっているだろう。NATOの東方拡大を続ければどうなるか、ロシアがウクライナ周辺に戦力を結集している中、ロシアが軍事侵攻する可能性は十分高いことも承知。要するに、アメリカと西欧諸国によるロシアに対するあおり運転そのものである。あおり運転をして、被害者が正当防衛として殴りかかってきたら110番して暴行現行犯で捕まえる、という悪質な犯罪者と同じようなもの。
そんな中で唯一ロシアの意図に理解を示したのがフランスのマクロン大統領。7日の記事から。
6日付の仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュ(JDD)がインタビュー記事を掲載した。マクロン氏はその中で「ロシアの地政学的な目的はウクライナではなく、NATOとEUと共存するためのルールをはっきりさせることだ」と分析した。領土拡張が第一の目的ではないとの見方を示した。
フランスのマクロン大統領とロシアのプーチン大統領は7日、モスクワで会談した。8日の記事。
約6時間続いた会談後の記者会見で、プーチン氏は「ウクライナ情勢が平和的に解決することを望んでいる。事態打開の土台となる提案もフランス側からあった」などと語った。マクロン氏も「いかなる状況の悪化も防ぐよう努力しなければいけない。意見が一致する点も見つけた」と応じ、議論の成果を強調した。
(中略)ロシアが求めるNATOの東方拡大停止を米国などが拒否したことに、プーチン氏は「ロシアの抱える中心的な懸念は残念ながら無視された」と不満を述べた。マクロン氏は拡大停止を決めるのは現実的ではないとの考えを示した。
戦争を避けるために、欧米が高所的判断からウクライナのNATOへの参加を認めない、一方ロシアはウクライナの独立を尊重する(ただし東部問題は別)、との意思を示せば侵攻は回避できたはず。
しかし事態は改善の兆しを見せないままロシアのウクライナへの軍事侵攻へと導かれていく。欧米、特にアメリカにとってはロシアのウクライナへの侵攻を待ち、この機にロシアを極悪人に仕立て上げ、ロシアの国力を一気に葬ることが当初からの目的だったように思われる。戦争を望んでいたのはアメリカである可能性は高く、そうであればあおり運転の確信犯。
2月24日、ロシアのプーチン大統領はテレビ演説でウクライナへの軍事作戦の開始を表明した。演説の要旨は以下の通り。
30年にわたり、欧州の安全保障の原則について合意を目指してきた。北大西洋条約機構(NATO)は我が国が抗議したにもかかわらず、拡大を続けてきた。2021年12月にも米国などと再度合意を試みたが、米国の立場は変わっていない。隣接する領土にも対抗的な「反ロシア」が生まれている。NATOの継続的な拡大はロシアの生死にかかわる脅威だ。
今日3月3日の日経新聞朝刊と夕刊の一面トップ記事。

- 関連記事
-
- 欧州の「入試」の実態(書き忘れ分の追記あり)
- ウクライナ危機:真の主導者はアメリカ
- ウクライナ軍事侵攻:あおり運転は犯罪(後半)
- ウクライナ軍事侵攻:あおり運転は犯罪(前半)
- 崖っぷちの日本のスケッチ
スポンサーサイト
*Comment
Comment_form