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2022.07/15 [Fri]
東電株主訴訟のの判決 (追記版)
今朝の新聞、一面に東電経営陣に13兆円の賠償命令という派手なニュースが掲載されていた。社説でも触れられ、さらに関連記事が2本、「東京地裁判決の要旨」なる資料も掲載されるという丁寧な扱い方。

一面記事によると概要はこう。サブタイトルには「津波対策怠る」とある。争点は政府機関が02年に公表した地震予測「長期評価」に基づき巨大津波の予見が可能だったかや、浸水対策などで事故を防げたかどうかだったそうだ。
東京電力福島第1原子力発電所事故を巡り、同社の株主らが旧経営陣5人に計22兆円を東電に支払うよう求めた株主代表訴訟(筆者註:民事裁判)の判決で、東京地裁は13日、旧経営陣4人に計13兆3210億円の支払いを命じた。朝倉佳秀裁判長は津波対策を怠ったと判断した。原発事故を巡る旧経営陣の責任を認めた判決は初めてで、国内の裁判の賠償額としては過去最高とみられる。
真ん中の解説記事はサブタイトルにあるように「原賠法のあり方に一石」という冷静な記事。原子力損害賠償法(原賠法)は1961年に成立したとか。今回の判決は2018年に成立した改正原賠法の基づく判決だが、本質的にオリジナルと大きな差はないらしい。
三つ目の記事は社会面で、メインタイトルが「地震長期評価に『信頼性』」でサブタイトルが「東電旧経営陣、対策放置は不作為」。記事では、「これまでの原発事故訴訟と同様、主な争点は巨大津波を事前に予見できたかどうか。事故の9年前に公表された地震予測「長期評価」について「信頼できる」と判断したことが、賠償責任の分かれ目となった。」とある。また記事の最後に、「元東京高裁判事の升田純弁護士は「民事裁判の事実認定は、刑事裁判ほど厳格な判断は求められない。刑事事件など、他の訴訟への影響は限定的だろう」とみている。」ともあった。
最後の「東京地裁判決の要旨」をみると、当然ながら見出しほど雑駁な話ではない。「長期評価」の見解は相応の科学的信頼性がある知見だったという結論のもと、過酷事故を防ぐための津波対策を速やかに講ずるよう指示せず(本件不作為)、ほかの被告らも判断を是認した(筆者註:=任務懈怠)ためということの様だ。同要旨にはこうある。
【任務懈怠と事故との因果関係】被告らから指示を受けた東電の担当部署は、主要建屋や重要機器室の水密化を容易に着想して実施し得た。水密化の措置は多層的な対策となっていたことから、津波による電源設備の浸水を防げた可能性があった。水密化措置に要する期間は合計2年程度と認められる。武藤元副社長、武黒元副社長、勝俣元会長、清水元社長らの任務懈怠はいずれも震災より2年以上前で、震災までに措置を講ずることが可能だったから原発事故との間に因果関係が認められる。
さて、事故の様相をあらためて振り返る。下の画像は事故当初に行われたヘリコプターによる放水とその後の放水車による放水。

福島ではチェルノブイリ原発事故と異なり原子炉の爆発は起きず、生じたのは原子炉建屋の水素爆発もしくは水蒸気爆発による破壊であった。この事故で初めて知ったが、原発の事故における最大の問題点が原子炉の燃料棒の崩壊熱。原子炉は水による核分裂の制御と崩壊熱の冷却によって安全性が確保されている。水はポンプによって注水されるが、ポンプは電気で動く。
原子炉はウラン235が核分裂する際の熱エネルギー(火力発電はLNG,石炭発電は石炭)を利用して発電するが、ウラン235は核分裂する際にいろんな原子核にわかれ、100種ほどの核分裂生成物と呼ばれる物質ができる。ほとんどが不安定な放射性物質で、安定な状態になるまで、ベータ線などの放射線を出しながら「崩壊」を繰り返し、熱を出し続ける。これが崩壊熱で、原子炉が停止しても核分裂生成物は存在する。崩壊熱は時間と共に急減していくが、初期の崩壊熱量は莫大、ゆえに水で冷却せねばならない。原子炉内の水が熱せられれば圧力が急激に上昇し、原子炉が爆発する。それを避けるために圧力を抜く=内部の水蒸気を抜くのがベント作業。
ゆえに事故発生からの東電の吉田所長のとった緊急措置は、ベント作業と水による冷却努力だけだったと言ってもいい。冷却すると言っても、原子炉建屋の爆発の後の瓦礫の山の中で大量の水を用意することはできない。緊迫した状況の中で当初にできることは、アクセス可能な空からわずかでもいいから水を撒くという原始的な対策だけだったのである。
3.11の東日本大震災並びに福島原発事故の発生当時、スキー場で追突され背中側の肋骨を6本折るという重症により自宅療養していた。だから一日中テレビにくぎ付けの状態、おかげで原発についても多くのことを学んだ。
その結論が、原発の最大の弱点は水による冷却機能の確保の可否にある、ということだった。この話は8年半ほど前に「脱原発の必要性(5)-福島原発事故の認識の仕方」という記事で詳しく述べているのでお暇な方はご参照のほど→こちら。
さて、水が原発の安全性の最大の要素であることは、東電の原発担当技術者にとっては常識である。当時のテレビで東電の技術者が説明していたが、福島原発には、電源を喪失したケースに備えるバックアップシステムが設置されていた。詳しくは覚えていないが、圧力差を利用して原子炉内に水を循環するシステムであった。いかにも頭のいいエンジニアが設計したシステムではあったが、しかし理屈はわかったものの印象はいかにも繊細で、システム内に何か異常が起きたら機能しないだろうな、という印象だった。実際、一部とはいえ爆発が生じた環境においては機能しなかった。
長々と書いたのは、事故の原因が津波対策と水密化の不作為にあるとの判決であったが、事故は電源の喪失による冷却ができなかったことにあるので、大規模な電源喪失事故、もしくは電源にたいする破壊活動でも同じ事故は起きた。電源喪失時に対する対策も、一応用意されていたので任務懈怠とはいいがたい。地震の予期とか津波対策云々というのは筋違い。
問題は、東電の電源喪失という事態に対する認識にあったように思われる。予備電源や上記の電源不要の注水システムなど一応の対策は用意されていたが、ヘリコプターで海水を撒くなどという超原始的な対策がとられるなど、水の絶対的重要性を知っていながら、水が注入できなかった場合に何が起きるのかのシナリオ分析はたぶん検討されていなかったと見られる。
もしそういった事態が想定されていれば、大量の水が常に用意され、注水、放水、冠水できるシステムも用意されていただろうから。
本記事、今回の被告に対する弁護記事のようだが、いずれにしろ東電の設計や安全にかかわる関係者の責任はまぬかれないという弾劾記事である。

一面記事によると概要はこう。サブタイトルには「津波対策怠る」とある。争点は政府機関が02年に公表した地震予測「長期評価」に基づき巨大津波の予見が可能だったかや、浸水対策などで事故を防げたかどうかだったそうだ。
東京電力福島第1原子力発電所事故を巡り、同社の株主らが旧経営陣5人に計22兆円を東電に支払うよう求めた株主代表訴訟(筆者註:民事裁判)の判決で、東京地裁は13日、旧経営陣4人に計13兆3210億円の支払いを命じた。朝倉佳秀裁判長は津波対策を怠ったと判断した。原発事故を巡る旧経営陣の責任を認めた判決は初めてで、国内の裁判の賠償額としては過去最高とみられる。
真ん中の解説記事はサブタイトルにあるように「原賠法のあり方に一石」という冷静な記事。原子力損害賠償法(原賠法)は1961年に成立したとか。今回の判決は2018年に成立した改正原賠法の基づく判決だが、本質的にオリジナルと大きな差はないらしい。
三つ目の記事は社会面で、メインタイトルが「地震長期評価に『信頼性』」でサブタイトルが「東電旧経営陣、対策放置は不作為」。記事では、「これまでの原発事故訴訟と同様、主な争点は巨大津波を事前に予見できたかどうか。事故の9年前に公表された地震予測「長期評価」について「信頼できる」と判断したことが、賠償責任の分かれ目となった。」とある。また記事の最後に、「元東京高裁判事の升田純弁護士は「民事裁判の事実認定は、刑事裁判ほど厳格な判断は求められない。刑事事件など、他の訴訟への影響は限定的だろう」とみている。」ともあった。
最後の「東京地裁判決の要旨」をみると、当然ながら見出しほど雑駁な話ではない。「長期評価」の見解は相応の科学的信頼性がある知見だったという結論のもと、過酷事故を防ぐための津波対策を速やかに講ずるよう指示せず(本件不作為)、ほかの被告らも判断を是認した(筆者註:=任務懈怠)ためということの様だ。同要旨にはこうある。
【任務懈怠と事故との因果関係】被告らから指示を受けた東電の担当部署は、主要建屋や重要機器室の水密化を容易に着想して実施し得た。水密化の措置は多層的な対策となっていたことから、津波による電源設備の浸水を防げた可能性があった。水密化措置に要する期間は合計2年程度と認められる。武藤元副社長、武黒元副社長、勝俣元会長、清水元社長らの任務懈怠はいずれも震災より2年以上前で、震災までに措置を講ずることが可能だったから原発事故との間に因果関係が認められる。
さて、事故の様相をあらためて振り返る。下の画像は事故当初に行われたヘリコプターによる放水とその後の放水車による放水。


福島ではチェルノブイリ原発事故と異なり原子炉の爆発は起きず、生じたのは原子炉建屋の水素爆発もしくは水蒸気爆発による破壊であった。この事故で初めて知ったが、原発の事故における最大の問題点が原子炉の燃料棒の崩壊熱。原子炉は水による核分裂の制御と崩壊熱の冷却によって安全性が確保されている。水はポンプによって注水されるが、ポンプは電気で動く。
原子炉はウラン235が核分裂する際の熱エネルギー(火力発電はLNG,石炭発電は石炭)を利用して発電するが、ウラン235は核分裂する際にいろんな原子核にわかれ、100種ほどの核分裂生成物と呼ばれる物質ができる。ほとんどが不安定な放射性物質で、安定な状態になるまで、ベータ線などの放射線を出しながら「崩壊」を繰り返し、熱を出し続ける。これが崩壊熱で、原子炉が停止しても核分裂生成物は存在する。崩壊熱は時間と共に急減していくが、初期の崩壊熱量は莫大、ゆえに水で冷却せねばならない。原子炉内の水が熱せられれば圧力が急激に上昇し、原子炉が爆発する。それを避けるために圧力を抜く=内部の水蒸気を抜くのがベント作業。
ゆえに事故発生からの東電の吉田所長のとった緊急措置は、ベント作業と水による冷却努力だけだったと言ってもいい。冷却すると言っても、原子炉建屋の爆発の後の瓦礫の山の中で大量の水を用意することはできない。緊迫した状況の中で当初にできることは、アクセス可能な空からわずかでもいいから水を撒くという原始的な対策だけだったのである。
3.11の東日本大震災並びに福島原発事故の発生当時、スキー場で追突され背中側の肋骨を6本折るという重症により自宅療養していた。だから一日中テレビにくぎ付けの状態、おかげで原発についても多くのことを学んだ。
その結論が、原発の最大の弱点は水による冷却機能の確保の可否にある、ということだった。この話は8年半ほど前に「脱原発の必要性(5)-福島原発事故の認識の仕方」という記事で詳しく述べているのでお暇な方はご参照のほど→こちら。
さて、水が原発の安全性の最大の要素であることは、東電の原発担当技術者にとっては常識である。当時のテレビで東電の技術者が説明していたが、福島原発には、電源を喪失したケースに備えるバックアップシステムが設置されていた。詳しくは覚えていないが、圧力差を利用して原子炉内に水を循環するシステムであった。いかにも頭のいいエンジニアが設計したシステムではあったが、しかし理屈はわかったものの印象はいかにも繊細で、システム内に何か異常が起きたら機能しないだろうな、という印象だった。実際、一部とはいえ爆発が生じた環境においては機能しなかった。
長々と書いたのは、事故の原因が津波対策と水密化の不作為にあるとの判決であったが、事故は電源の喪失による冷却ができなかったことにあるので、大規模な電源喪失事故、もしくは電源にたいする破壊活動でも同じ事故は起きた。電源喪失時に対する対策も、一応用意されていたので任務懈怠とはいいがたい。地震の予期とか津波対策云々というのは筋違い。
問題は、東電の電源喪失という事態に対する認識にあったように思われる。予備電源や上記の電源不要の注水システムなど一応の対策は用意されていたが、ヘリコプターで海水を撒くなどという超原始的な対策がとられるなど、水の絶対的重要性を知っていながら、水が注入できなかった場合に何が起きるのかのシナリオ分析はたぶん検討されていなかったと見られる。
もしそういった事態が想定されていれば、大量の水が常に用意され、注水、放水、冠水できるシステムも用意されていただろうから。
本記事、今回の被告に対する弁護記事のようだが、いずれにしろ東電の設計や安全にかかわる関係者の責任はまぬかれないという弾劾記事である。
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